最初に言っておくと、私はエンジニアではありません。
NTTでSEをやって、スクウェア・エニックスやドリコムでゲームやWebサービスの開発に関わり、自力でWebアプリケーションを作ったこともあります。インフラも一通り触ってきました。ただ、あくまで「開発でやっていることを理解しようとしてきた人間」であって、あくまでもディレクション方向の人間で、コーダーとして本格的に仕事をしてきたわけではありません。
グラフを伴うインタラクティブなビジュアライゼーションをフロントエンドで実装するなんて、プロとしてやったことは一度もありませんでした。正直、こんなものが自分に作れるとは思っていませんでした。
そういう人間が、統計の学習ツールを作った話です。
// なぜ作ったか
統計検定2級の勉強を始めて、参考書を開きました。
信頼区間のページで止まりました。書いてあることは読めます。でも絵が浮かばない。何度読んでも、なんとなくわかった気になっては、また霧がかかる。そういう概念がいくつかありました。
そこで思ったのが、「これ、動いたら一発じゃないか」ということでした。
ゲームやアプリの開発現場に長くいたので、インタラクティブな体験が概念の理解を変えることは知っています。スライダーを動かして、グラフが動いて、数字が変わる。その体験が「あ、そういうことか」を生む。文字と数式だけでは届かない人に届く。
でも、そういうツールがなかったんです。
あっても、せいぜい静止した図が何枚かあって、「動いたらこうです」と説明する程度のもの。実際に自分の手で動かして体感できるものが、ほとんどない。
だったら作ればいいと思いました。
// AIがなければ作れなかった
ただ、私にはこれを作る技術力がありません。
以前なら、「作りたいけど作れない」で終わっていた話です。
でも今はAIがあります。Claude(Anthropic)と対話しながら、実装を進めることができました。プロンプトを投げてコードが出てくる、という単純な話ではなくて、「こういう動きにしたい」「この設計判断はどうか」「これは後で壊れないか」をひたすら対話しながら作っていく作業でした。
ディレクターとして長く仕事をしてきたので、要件を言語化することと、出てきたものを評価することは、それなりにできます。開発の現場で技術を理解しようとしてきた積み重ねが、AI協業という文脈でそのまま使えました。
// 「AIに作らせるのは簡単」は半分間違い
少し脱線しますが、これは言っておきたいことです。
AIに指示を出せばコードが出てくる。だから簡単に見える。でも実際やってみると、判断の連続でした。
この設計は正しいか。この実装は将来の拡張に耐えられるか。この機能は本当に必要か。何を入れて何を入れないか。
これを全部、自分で決め続けなければいけません。AIは「できます」と言いながら間違った方向に走ることがあります。それを評価して止めるのも人間の仕事です。
技術的な構造をある程度わかっていないと、この判断ができません。「ESモジュールにすべきか」「依存ライブラリを入れるべきか」の良し悪しが評価できないと、AIが提案したものをそのまま受け入れてしまいます。
その結果、動くけど壊れやすい、動くけど3年後に誰も触れないものができます。
私がこれをやり切れたのは、開発現場で技術を理解しようとしてきた積み重ねが、かろうじて判断の土台になったからだと思っています。逆に言えば、その土台がまったくない状態でAI協業に臨むのは、思ったより難しいです。
// このツールの立ち位置
参考書の代わりになろうとは、まったく思っていません。
統計を体系的に学ぶなら参考書と問題集に向かってください。計算の練習も、試験対策も、ここではできません。ただ、「この概念、なんとなくしかわかってない」という瞬間に開いてもらえたら、それで十分です。
// 最後に
このツールを作った動機はシンプルで、自分が欲しかったから作ったというだけです。
そしてこれを作りながら、自分自身が統計の面白さに気づきました。概念をビジュアライズしようとすると、その概念を本当に理解していないと作れない。作ることが学ぶことになる、という体験でした。
それもあって、これからも学び続けたいと思っています。統計の奥は深い。まだまだ知らないことだらけです。コンテンツも少しずつ増やしていきたいし、もっと直感的に、もっとゲーミフィケーションを取り入れながら、「統計って面白い」を感じてもらえるものにしていけたらと思っています。
コードはGitHubで全部公開しています。オープンソースなので、改造して使っていただいてもかまいません。授業で使いたい、自分のサイトに組み込みたい、別の概念を追加したい——そういう形で教育の役に立てていただけるなら、とてもうれしいです。ただ商用利用の場合はCC BY-NC 4.0のライセンス上、一度ご相談ください。
同じように「動いて見えたら一発でわかるのに」と思っている人に届けば、それで十分だと思っています。
統計って、じつはめっちゃ面白い。
Jumpei Sasai / Sasai Lab — 2026.04